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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)952号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

被控訴人会社の代表者清水正雄の義兄である訴外仲条平三は、右清水の依頼に応じて、被控訴人会社の負債の整理を援助する目的で昭和五三年七月五日飯山農業協同組合から金六〇〇〇万円を借り受け、被控訴人会社の控訴人に対する弁済に備えてそのうち金二〇〇〇万円以上を仲条名義の預金として保有していたこと、清水は、右金員を以て被控訴人会社の控訴人に対する債務の支払をしようと考え同年七月一五口控訴人の代理人として衝に当つている君波清の勤務先である株式会社朝日企業の長野営業所において、被控訴人会社の控訴人に対する債務の元利合計額を尋ねたところ、一六〇〇万余円であると告げられたが、予め計算していたところより高額であつたためこれに承服せず、仲条の勧告もあつてかねて被控訴人会社の債務の整理を任せている弁護士金子光邦と協議するため同月一七日上京し同弁護士の事務所を訪ね、以上の経緯を述べたこと、金子は即日新潟県下の営業所にいる君波清と電話で連絡をとつて交渉を始めたが、君波が前記金額を主張するので一旦電話を切り、更めて計算を確認したうえで、被控訴人らとしては本件債権(一)ないし(三)の元利金残金全部の弁済として、利息制限法に則つて計算すると右同日現在における元利金は一五四〇万三一〇四円となるので、これを直ちに支払いたい旨申入れたところ、右君波は、利息制限法に則つて計算することに難色を示したうえ、自己の計算によれば残元利金は金一五七〇万円余りとなると主張したため、当日は弁済額につき一致をみるに至らなかつたこと、右両者は、その後も右の点につき再三折衝を行つたが、君波が右の主張を譲らないため遂に合意に到達することができなかつたこと、控訴人は、同年一〇月二八日本件各不動産につき前記根抵当権の実行として競売の申立をしたこと(この事実は当事者間に争いがない)が認められ<る。>なお、右のとおり金子は弁済すべき額として金一五四〇万三一〇四円と申入れたが、本件債権(一)ないし(三)につき利息制限法に則り計算した同年七月一七日現在における残元利金合計額は正しくは金一五三三万五五六〇円であることは計数上明白である(なお、右計算は、利息については利息制限法の制限利率年一割五分により、遅延損害金については約定された年三割によることとなる。)。

以上の事実によれば、被控訴人会社は、金子弁護士が控訴人の代理人君波清に対して弁済の申入れをした当時、本件債権(一)ないし(三)に対する弁済のための資金の準備を整えていたということができるが、右金子は、そばに正雄が居たとはいえ、東京から電話で、しかも遠隔地にいる君波と交渉したにすぎないから、君波に対して直ちに弁済金の交付ができる状態の下において交渉に当たつたとはいえず君波に対し現実に弁済の提供をしたものと認めることはできない。しかし、右認定の、弁済額についての交渉の経緯に関する事実によると、被控訴人会社は弁護士である金子を代理人としているのであるから、控訴人の代理人である君波としても、結局被控訴人会社から利息制限法に則つて計算した額以上の支払を受けることが困難であることは容易に察知し得たものと認められるから、同年七月一七日の電話による交渉において、金子が利息制限法によつて計算した額(もつとも、この額は計算違いのため、本来弁済すべき額を上廻るものであることは前記のとおりである)を示したのに対し、利息制限法によることに難色を示し、かつ、自己の計算によるとする額(その計算の根拠は本件記録上遂に明らかではない)を主張して譲らなかつたことは、もともと本件を利息制限法に則り計算した額により解決すること、換言すれば被控訴人会社から右額の弁済があつても、これを受領する意思のないことを確定的に明らかにしたものと認めるべきである。そうして、控訴人が本件各貸金について利息制限法によつて計算した前記金額以上の支払を受け得ないことはいうまでもないから、代理人である君波が右のとおりの意思を表明したことは、結局控訴人が右の額による弁済を予め拒んだものというほかない。してみると、前認定のとおりのいきさつでなされた金子の申入れは、受領の催告、すなわち、いわゆる口頭の提供の効力を有するものというべきである。もつとも右認定の事実によると、金子と君波とは同年七月一七日以後も控訴人が競売の申立をするに至つた同年一〇月二八日までの間なお支払額について交渉を重ねていたことは明らかであるが、本件のような貸金債務の支払金額の争いの場合に、事案の簡易迅速な解決のために、法律上の主張はさておいて、金額について交渉することはしばしばあることであり、両者の主張の差が僅々三〇万円前後にすぎない本件において右の趣旨で交渉が続けられたものであることは弁論の全趣旨によりこれを看取することができるから、右の事実は、前記の認定判断を左右するものではなく、他にこれに反する的確な証拠はない。

以上の次第であつてみれば、被控訴人会社は、控訴人の代理人君波に対し昭和五三年七月一七日本件債権(一)ないし(三)について適法に弁済の提供(口頭の提供)をしたものであるから、以後本件貸金債務について遅滞の責を負わないものというべきである。

(川上泉 奥村長生 橘勝治)

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